トークン化預金推進の新機構が10月に始動 黒田前日銀総裁らも参画

一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)は9月25日、東京都内で設立発表記者会見を開いた。金融機関や企業、自治体など幅広い主体が参加し、トークン化預金を中核とするデジタル決済インフラの標準化や政策提言に取り組む団体で、10月から活動を始める。

エグゼクティブアドバイザーには黒田東彦前日本銀行総裁が就いた。会見では代表理事の勝栄二郎氏と副代表理事の山岡浩巳氏が、設立の背景や各国で進む銀行預金のトークン化の動きを説明した。

用語解説:トークン化預金とは
銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして扱う仕組み。銀行が発行する預金そのものであり、ステーブルコインとは法的な位置付けが異なる。取引条件をプログラムと連動させ、決済を自動化できる点が特徴だ。国内では43社が参加する銀行間決済の実証が進み、ゆうちょ銀行も2026年度の発行を計画している。

銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして扱う仕組み。銀行が発行する預金そのものであり、ステーブルコインとは法的な位置付けが異なる。取引条件をプログラムと連動させ、決済を自動化できる点が特徴だ。国内では43社が参加する銀行間決済の実証が進み、ゆうちょ銀行も2026年度の発行を計画している。

元財務事務次官、弁護士。株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)特別顧問、株式会社DCP顧問。

フューチャー株式会社取締役、デジタル通貨フォーラム座長。元日本銀行決済機構局長。

フォーラムを発展、社会実装の段階へ

機構は、2020年に発足したデジタル通貨フォーラムを発展改組する形で7月1日に発足し、10月1日から本格的な活動を始める。事務局は株式会社DCPが担う。会見の冒頭、代表理事の勝氏が設立の背景を説明した。

本機構は、デジタル社会の経済成長・社会課題解決に寄与するデジタル通貨・決済インフラのイノベーションを推進する。本社団法人を設立した背景には、日本の経済・金融の未来に関わる3つの主要な課題がある。

第1に、社会実装フェーズへの移行だ。デジタル通貨フォーラムの活動を通じて、トークン化預金のユースケースや制度設計ニーズが具体化し、社会実装へと進むフェーズに入った。標準化・制度設計・市場整備を継続的に進める枠組みが求められる。

第2に、政策形成の「統一窓口」の必要性だ。社会実装を進めるには、複数の省庁や業界を横断した協調的な政策形成が欠かせない。産業界の意見を整理し、行政と連携して制度設計を進める統一的な窓口が求められる。

第3に、国際的な標準化の潮流だ。欧州を中心にコンソーシアム型の標準化が進んでおり、日本でも国際整合性を確保しながら標準化を推進する枠組みが必要だ。そうした中で、日本のトークン化預金の取り組みは、海外からも非常に大きな関心を集めている。

本社団法人には、金融、法務、行政など各分野の第一線で活躍される専門家に参画いただいている。さらに客観的な視点から指導をいただくため、前日本銀行総裁の黒田東彦氏をエグゼクティブアドバイザーに迎えた。

理事には3メガバンクグループやゆうちょ銀行、SBI新生銀行、GMOあおぞらネット銀行の役員が就いた。特別顧問には雨宮正佳前日本銀行副総裁や井藤英樹前金融庁長官、3メガバンクグループの首脳らが名を連ねる。

同日公表したプレスリリースによると、今後は地方銀行や、金融インフラを提供するIT系企業からも理事を迎える方針だ。会員については、デジタル通貨フォーラムからの継続参加や新規参画の金融機関・企業など40社以上が入会を決定、または検討を進めている。10月以降に会員名を公表する予定だ。

「通貨システムは経済社会を支える基盤インフラであり、より優れた姿にアップデートしていく上では、幅広いステークホルダーが結集し協力していく必要がある」

メッセージで黒田氏は、ブロックチェーンやAIに象徴されるデジタル技術革新が通貨間の競争を加速させていると指摘した。そのうえで、各国には自国通貨への信認を守りながら、利便性を高める取り組みが一段と強く求められているとした。

また、民間銀行と中央銀行の二層構造という歴史的なレガシーを受け継ぎつつ、新しい技術でイノベートしていく必要があると強調した。機構を通じて、円の信認確保と使い勝手の向上に幅広い主体の知恵と力が集まることにも期待を示した。

フォーラムでは100を超える企業やステークホルダーが議論を重ねてきた。その中で、これまで通貨インフラを支えてきた銀行がこれからも中核を担い、預金を新しい技術でイノベートしていくのが一番良いという結論になった。

いよいよ社会実装の段階を迎え、社団法人という形でさらに大きく発展していくことは大変感慨深い。

銀行・技術・ユーザーの3部会で協調領域を形成

機構は理事会の下に3つの部会を置く。銀行間の決済やインフラの中核を検討する「銀行部会」、技術の標準化を担う「技術部会」、物流・商流と決済の連携などユースケースを開拓する「ユーザー部会」だ。必要に応じてワーキンググループも設ける。機構が公表した体制図(9月25日時点の予定)は以下の通り。

デジタル通貨が社会で幅広く使われるには、複数の銀行をまたがって使えるようになる必要がある。また通貨インフラには強い規模の経済やネットワーク外部性が働くので、バラバラのものをたくさん作って互いに使えないのでは意味がない。

同じ技術プラットフォームのもとで互いに効率的に接続できるよう、標準化が非常に重要なテーマになる。

具体的な活動として、配布資料では会員向けの情報提供やネットワーキング、ワーキンググループを通じた標準化や制度設計の検討、政策提言を掲げた。プレスリリースでは、商流・行政・金融をつなぐ共通ガイドの策定や、グローバル標準化に日本代表として参画することも打ち出している。

オンチェーン金融、AIとの連携で取引を自動化

配布資料では政府の動向として、自民党のプロジェクトチーム(座長:木原誠二衆院議員)による「オンチェーン金融」の提言を紹介した。この提言は、7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026」に反映されている。

提言は、半導体、AIに続く「18番目の成長投資分野」として金融を位置付けるよう求めている。山岡氏は、オンチェーン金融の土台となるトークン化について次のように説明した。

デジタルトークンには、この価値が何円・何ドルか、誰が誰に対してどんな権利を持つかというインフォメーションがある。加えて、どのように所有され、どのような時に移転するのかというルールも内包できる。

それぞれのトークンがインフォメーションとルールを持っていることが、金融取引や経済取引を飛躍的に効率化する可能性を持っている。

活用例として山岡氏は、証券と代金を同時に受け渡すDVPや、複数の銀行が関わる国際送金の効率化を挙げた。工場に部品が納入された時点で自動的に支払いが行われるような、物流・商流と資金の連携も可能になるという。そのうえで、AIとの組み合わせに期待を示した。

最近ではAIが急速に発展している。取引をすべきかすべきでないかをAIが判断する。

これを、一定の条件が成就すると取引を自動的に実行するスマートコントラクトと組み合わせれば、AIが実行すべきと判断したものを自動的に実行できる。取引を効率化できる可能性がある。

各国で加速する預金のトークン化、その背景

海外の事例として、資料ではBIS(国際決済銀行)主導の「Project Agorá」を紹介した。韓国の「Project Han River」には、中央銀行を中心に民間銀行や大学、自治体、商店などが参加している。山岡氏は、こうした取り組みが広がる背景として4つを挙げた。

1つ目は、デジタル化の下で通貨間の競争が激しくなっていることだ。米国は米ドル建てのステーブルコイン、欧州はデジタルユーロ、中国はデジタル人民元の実験を進めている。

2つ目はステーブルコインだ。ステーブルコインは約99%がドル建てで、とりわけ米国では銀行以外のノンバンクによって発行されている。銀行がこれからも決済の中核を担い続けていくには、やはりデジタル化しなければいけないという問題意識がある。

3つ目は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)の議論を重ねる中で、民間の取り組みも重要だという認識が世界的に広がってきたことだ。

電信送金から始まり、クレジットカードやATM、モバイルペイメントまで、これまでの決済のイノベーションはすべて民間から生まれている。これからも民間がイノベーションの主役を担うべきだという考えがある。

4つ目は生成AIだ。これまで人間が行っていたジャッジメントの領域にAIが入ってくると、そのメリットを生かすには、取引の執行も自動化・効率化されることが重要になる。

デジタル通貨フォーラムで進めてきた方向と同じ取り組みを世界各国が進めていることは、大変心強い。機構としても海外の動きと連携し、日本のインフラのイノベーションに努めていきたい。

会見総括

「安心で信頼され、効率的かつ国際競争力の高いデジタル決済インフラを通じて、日本の金融・経済の発展と人々の経済厚生の向上に貢献する」

日銀や金融庁の元幹部、3メガバンクグループの首脳らが参画する体制で、銀行間決済をはじめとする協調領域の議論がどこまで具体化するかが注目される。