2026年7月13日、東京で開催された「WebX 2026」のBinanceステージにて、株式会社イオレ代表取締役社長兼CEOの瀧野諭吾氏が「AIエージェント経済への道筋 Web3とAIインフラの交差」と題した単独基調講演を行った。Web2.0型事業からAIおよびブロックチェーンへの大転換を進めるイオレが、なぜ「インフラから経済圏まで一気通貫」を目指すのか、その構想と足元の進捗を約15分にわたって語った。
AIインフラ、デジタルアセット、次世代金融システムの融合領域に注力するテクノロジー起業家。2025年6月、東証上場の株式会社イオレ(証券コード:2334)の代表取締役社長兼CEOに就任。AIコンピュートインフラとクリプトネイティブな金融サービスを中核とするプラットフォームへの事業転換を推進している。
Web2.0からの事業転換
株式会社イオレはもともと、インターネット広告やメディア事業を中心とするWeb2.0型のサービスを複数抱える企業だった。しかし瀧野氏が2025年6月にCEOへ就任した当時、状況は厳しかった。利用者がAIを活用するにつれて検索エンジンの使用頻度が下がり、Web2.0型事業の再成長は困難な局面に差し掛かっていた。
「もともとウェブ2.0的な事業は、どんどん皆さんがAIを使うに従って検索エンジンを使わなくなっていって、なかなかこのままで再成長させていくのが難しい状況でございました」
この課題に対して瀧野氏が選んだ道は、AIとブロックチェーンという2つの成長トレンドに乗る形での事業の大転換だった。2026年3月にAI・ブロックチェーン事業の開始を発表し、MSワラント(新株予約権)を通じた資金調達を経て、調達した資金をAIインフラとブロックチェーン事業への投資に全力投入している。特にAIデータセンター事業は参入から1年で売上100億円を超え、今年度はさらにその倍の売上を見込むと述べた。
補足:株式会社イオレ(東証:2334)は、もとはコミュニティサービス「らくらく連絡網」などを運営するWeb2.0系企業。2026年以降、AIインフラ事業および仮想通貨関連事業を新たな成長軸として加速させている。
日本のデジタル赤字と推論インフラ競争
瀧野氏はAI経済圏の構造を、インターネット時代のプラットフォーム企業と対比させながら説明した。AWSがデータセンターを押さえ、その上にAmazonのサービスとAmazon Payが乗ることで巨大な経済圏を築いたように、AI時代においても「インフラから経済圏まで一気通貫で設計する構造がなければ大きな事業は作れない」と強調した。
「AIの時代は、再びインフラから経済圏を構築できる、世紀に一度のチャンスだというふうに捉えております」
一方で、日本の現状には強い危機感を示した。現在、利用者が日々使うAIのほとんどは海外のデータセンターで動作し、国内の推論市場シェアはわずか2%にとどまるという。その背景にあるのが、日本国内のデータセンター整備の遅れと、推論用GPUサーバー1台が10億円に迫るほどの高コスト構造だ。経済産業省のデジタル経済レポートによれば、2035年には日本のデジタル赤字が約18兆円に達し、AI革命に伴う追加赤字がさらに約10兆円に上ると見込まれている。
補足:「デジタル赤字」とは、クラウドサービスやAIツールなどデジタル関連の海外への支払いが国内収入を上回る状態を指す。内閣官房や経済産業省のワーキンググループもその拡大を問題視しており、国内AIインフラ整備を急務とする議論が政府内でも進んでいる。
マレーシアが映すデータセンター建設ラッシュ
瀧野氏は講演の直前にマレーシアのジョホール州を視察したと語り、現地の光景を「日本のニュースにはなかなか出てこない」と述べながら詳述した。同州ではわずか2年で5GW超のAIデータセンター開発が進行しており、瀧野氏によれば約3GWはすでに竣工済みだという。1GWがおよそ原発1基分の発電量に相当することから、同エリアだけで原発5基分に相当するデータセンターが整備されていることになる。
インドと中国から数万人規模の労働者が集結し、30から40棟規模のコンテナ型データセンターが建ち並ぶ光景が広がっていたという。推論インフラ(AIがリクエストに答える際に使うサーバー設備)の開発競争において日本が出遅れれば、産業・資本・人材の海外流出につながると瀧野氏は強調した。
「こういったデータセンターの推論インフラの開発競争に取り残されると、AIが生み出す価値だけでなく、産業、資本、人材までも将来的にどんどん海外に流出していくことにつながると、私は非常に強い危機感を持っております」
この差を縮めるため、イオレはアメリカ・中国・東南アジアへ出向き、短期間でデータセンターを建設するノウハウと調達ルートを習得した。現在はNasdaq上場企業のSuperXと協業したコンテナ型データセンターの日本展開を進め、工場で規格化されたコンテナを組み上げることで、海外では6から9ヶ月で100MWクラスの施設を建設できる手法を国内に持ち込もうとしている。
補助金・助成金を活用した全国分散型の推論データセンター投資も並行して実施しており、今年後半に福島県に1基目、来年中頃に九州に2基目のデータセンター建設を計画。さらに講演の約1週間前には、100MW級の大規模AIデータセンター開発に向けた業務提携を発表したことも明かした。
日本初のAI経済圏とNeo Crypto Bank構想
瀧野氏が描く最終的な構想は、AIデータセンター(推論インフラ)を起点に、AI社会実装、そしてオンチェーン金融基盤へとつなぐ「川上から川下まで一気通貫のAI経済圏」だ。データセンター事業で得た収益を、AIネイティブ事業(AIが主体となって運営する事業)の育成や既存事業の買収・統合(ロールアップ)に投じ、その先には「AIが自律的に金融取引を行う時代」を見据える。
「AIが当たり前に使えるようになった世の中で、このAIがどのように金融を回していくのかということを構想して、今準備を始めております」
補足:「Neo Crypto Bank」はイオレが発表した金融プラットフォーム構想の名称。AIが日常的に使われる社会での金融インフラのあり方を構想したもので、仮想通貨プライムブローカレッジ(機関向け総合金融サービス)やオンチェーン決済基盤の整備を含む。