Canton Networkの創世紀 機関金融をオンチェーンへ|WebX2026

「伝統的な金融をリアルにオンチェーン化する」という創業時のビジョンから12年。Digital AssetのCo-Founder兼CEOであるYuval Rooz氏が、Canton Network誕生の経緯と現在地を語った。スイスの連邦制から着想を得た設計思想、プライバシーと分散化の両立、そしてDTCCとの連携による米国株式・米国債の実取引開始まで、金融機関とブロックチェーンの本格的な融合が現実となりつつある。

2014年にDigital Assetを共同創業。Canton Networkの形成に中心的な役割を果たし、Global Synchronizer FoundationのBoard Member兼Treasurerを務める。米CFTCグローバル市場諮問委員会・デジタル資産市場小委員会メンバー、Global Blockchain Business Council理事。創業前はCitadelおよびDRW Tradingにてアルゴリズム取引部門を統括。

1988年日本経済新聞社入社。シリコンバレー支局長、Nikkei Asian Review(現Nikkei Asia)創刊発行人などを歴任。シンガポール・バンコク・ムンバイ駐在を経て2024年から現職。テクノロジーと関連政策、インド政治経済などを担当。

Cantonの誕生 スイス連邦制から生まれた設計思想

小柳氏はまず、Digital Asset創業(2014年)からCantonのオープンネットワーク公開(2023年)までの9年間に何があったかを問いかけた。

創業当初から、世界中のあらゆる資産がデジタル化されブロックチェーン上で運用される未来を確信していた。当時はビットコインしか存在せず、イーサリアムが産声を上げた頃だ。ビットコインはユニークで特別だが、何もないところから無数の架空のアセットを生み出す理由は多くない。最大のチャンスは伝統的な金融をリアルにオンチェーン化できるかどうかだと考えた。

2015年にスイスのスマートコントラクト開発企業を買収したことが、Cantonという概念の誕生につながった。チームはスイス人で、Cantonというシステムもスイス発祥だ。スイスはカントン(州)の連邦制で、多くの州が互いに協力しながら機能する。名前の由来であると同時に、ネットワークのアーキテクチャの発想そのものでもある。

2016年にホワイトペーパーを完成させ、2020年には初版が完成した。しかしRooz氏は公開を急がなかった。「プロトコルを一度公開してしまうと大幅な変更が困難になる」という判断から、少数のクライアントと非公開で展開し続けた。

顧客からのフィードバックが、プロトコルを改善する上で非常に役立った。現在のCantonは3度のアーキテクチャ再設計を経て完成したもので、その大部分が顧客の声に基づいている。2023年になってようやく、オープンネットワークを立ち上げる準備が整ったと判断した。2016年のホワイトペーパーで描いたビジョンと、大枠では一致している。

プライバシーと分散化の両立 機関投資家の現実的需要

「プライバシーと分散化は対立するものとして語られるが、Canton はどう解決しているのか」と小柳氏が問いかけた。

まったく矛盾していない。ビットコインの初期の議論掲示板を見ても、当初はプライバシーを解決しようとしていた。ただ、初版ではそれが実現できず、そのバグが機能になり、さらにはムーブメントを象徴するものとして語られるようになった。だが、それは事実ではない。フランスでビットコインを保有していることが知られたために誘拐被害に遭っている人たちは、プライバシーを望んでいるはずだ。分散型であることとプライバシーは矛盾しない。

ただし現実として、機関投資家は自社の最も重要な活動を世界に公開することはしない。多くの場合、それはビジネス上の要件であり、規制上の要件でもある。顧客情報や取引記録を全世界に見せるわけにはいかないのだ。私たちは非常に現実的な会社だ。クライアントが求める場所で、クライアントに会う。プライバシーは、多くのケースで必要不可欠なものだ。

編集部注:Canton Networkは、機関投資家向けのプライバシー機能を実装した唯一のパブリック型レイヤー1ブロックチェーンとRooz氏は位置づける。プライバシー保護と公開性を両立させる設計が、従来の暗号資産チェーンとの最大の差異点のひとつとなっている。

Canton以外に、機関投資家が実際にオンチェーン上で直接ビジネスを運営しているネットワークは、今日のところ存在しない。多くの場合、アセットマネジャーはトークン化した資産の流通チャネルとしてブロックチェーンを使うが、実際の運用はオフチェーンのままだ。Canton上では、資産管理・取引・サービス提供がエンドツーエンドでオンチェーンで動いている。

パーミッションの多層設計 インフラと応用の分離

「あなたのチェーンはパーミッション型で、それがプライバシーを可能にしているのですか」という問いに、Rooz氏は即座に否定した。

違う。よく使う例えがある。インターネットは公共のネットワークだが、銀行のオンラインバンキングに行っても、誰でも勝手に口座を開設できるわけではない。Cantonのインフラは誰でもアクセスできる。だがそれは、そのインフラ上のすべてのサービスが誰にでも開かれているという意味ではない。

暗号資産の世界は、あらゆるものを二択に分けすぎている。白か黒かで判断しようとする発想だ。現実はそこまで単純ではない。Cantonはパーミッションレスのアセットも存在できるし、その隣にパーミッション型のアセットも共存できる。アプリケーションの設計者が決める話だ。インフラはオープンで、その上のアプリケーションが個々のルールを持つ、多層構造になっている。

編集部注:Rooz氏の説明によれば、Cantonのネットワーク自体はパブリック(誰でもアクセス可能)だが、その上で動く各アプリケーションはパーミッション型・パーミッションレス型の両方を実装できる。銀行が顧客のオンボーディングに本人確認を求めるのと同じ原理で、規制対応も担保した設計となっている。

パーミッションレスでさえ、ある種のパーミッションだとも言える。Cantonでは、パーミッションレスであるようにパーミッションすることもできる。私たちは見解を押しつけない。設計の選択肢をアプリケーション開発者に委ねている。

DTCCと日本国債 実ビジネスが動く証明

まず、最初の本番取引は明日行われる。DTCCは世界最大の保管機関で、100兆ドル相当の資産を保有している。米国株式と米国債という世界で最も重要な2つの資産クラスが、明日オンチェーンになる。現在50社以上がこれらの資産を活用したサービスを開発中で、主要な資本市場参加者のほぼ全員が何らかの形で関与することになるだろう。

編集部注:DTCCは米国の有価証券の受け渡し・清算・保管を担う中央機関。年間決済額は数京ドル規模とされる。世界最大の証券保管機関との連携は、Canton Networkが機関金融インフラとして実用段階に入ったことを示すマイルストーンといえる。なお、日本国債については、みずほ・野村・JSCCとのデジタル担保管理に関するPoC(概念実証)として発表されたものであり、本番運用には引き続き段階的な移行が見込まれる。

日本との関係についても触れた。SBIホールディングスによる出資に続き、日本国債を活用したデジタル担保管理のPoCについて発表があったと明かした。

JSCC(日本証券クリアリング機構)、金融庁、みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングスと共同で日本国債のトークン化を発表した。日本国債は世界で2番目に重要な担保だ。米国債と日本国債が同じプロトコル上に存在することになると、ドル円キャリートレードという世界で最も重要な取引のひとつに大きな可能性が開ける。今日、世界のトップ20銀行のほとんどが既にCantonネットワークに参加している。

補足:キャリートレードとは、低金利通貨で資金を調達し、高金利資産で運用することで利ざやを得る取引手法。ドル円キャリートレードは、超低金利の円で調達した資金を米ドル建て資産に投じるもので、規模・市場への影響力ともに世界最大級とされる。米国債と日本国債が同一プロトコル上でトークン化されれば、この取引をオンチェーンで完結させる基盤が整うことになる。

セッション総括

RippleやEthereum、Solanaとの競合関係を問われたRooz氏は、こう答えた。

「私は工学系の出身だ。最終的には物理が勝つと信じている。実際のビジネスを提供せず、実際の活動を処理しなければ、重力があなたを地面に引きずり下ろす。私はRippleやEthereum、Solanaと張り合うつもりはない。提携する組織が実際にビジネスを運営し、手数料を支払う、それに集中している。」

現在Canton上では毎日4000億〜5000億ドル近くを処理し、毎日EthereumやSolanaをそれぞれ上回る手数料を稼ぎ出しているという。それでも「これはまだ旅の第一イニングだ」とRooz氏は語った。機関投資家の活動をオンチェーンに取り込むことで、次世代の金融インフラへの投資機会が個人投資家にも開かれる。その実現に向けて、Digital Assetは実績を積み上げている。